2018/07/27
東北の高校生の富士登山2018に参加しました
昨年に引き続き、今年も「東北の高校生の富士登山」に医療班スタッフとして参加してきました。
参加した高校生たち数年分の寄せ書きが詰まった横断幕!
「東北の高校生の富士登山」は、故・田部井淳子さんの想いから発足した企画で、今年で開催7年目となる一大イベントです。
元々は、東日本大震災で被災された方々を励ますためのハイキングに端を発しているそうで、次世代を担う東北の高校生たちに富士登山に挑戦してもらい、今後の日本、東北を盛り上げていって欲しいという淳子さんの願いのこもった登山企画です。

初日は六合目まで。雲海荘と宝永山荘にお世話になりますが、女子生徒と医療班は昨年同様雲海荘に宿泊しました。
私自身は、知り合いの山岳医のつてでこの企画の帯同医師のお話をいただき、2017年から関わらせて頂いています。
2016年に他界された田部井淳子さんのことはもちろん存じていたものの面識はなく、私がはじめて参加した昨年にはそのお姿はすでにありませんでした。でも、古参のスタッフの方々が熱く語る目線の先には、プロジェクトの先頭に立って引っ張ってこられた気丈な淳子さんの笑顔がくっきりと浮かぶようで、淳子さんを知る方々の中で今も生き続けるその存在感をひしひしと感じていました。

はじめての登山、はじめての3000m超の高所に苦戦しながらも、粘り強く頂上を目指していく高校生たち。
未だ男尊女卑の風潮が根強かった1960〜70年代において、粘り強く信念を貫き通し、女性にも困難な冬壁が登れるということを身を以て証明したパイオニアである淳子さんは私の憧れです。そして、やはり先鋭的なクライマーである旦那さんの政伸さんとお二人は、互いの登山を尊重し支え合える素晴らしい山好きご夫婦で、クライマー夫婦である自分にとって理想のご夫婦でもあります。

高校生96名が無事山頂へ!
高校生たちが無事登頂すると、大人のスタッフの皆さんは天国の淳子さんにご報告されています。
私もこのプロジェクトのお手伝いができて本当に光栄です。

医療バックには、patagoniaのブラックホールキューブ(誕生日プレゼント!)が便利に使えています。
サイズはミディアムかな?ボスミンなどのちょっとした注射薬に外傷セット、外用薬、吸入薬、聴診器、内服薬(鎮痛剤、抗菌薬、風邪薬、芍薬甘草湯などの漢方、抗アレ薬、ステロイド、胃薬、整腸剤、ダイアモックスなど)、エアシーネ、SpO2モニタなどを入れています。
この他に、今回は輸液500cc×2、経口補水液500cc×1、OS-1パウダー×3を歩荷しましたが、懸念された熱中症は出ませんでした。

今回は下山時に捻挫があり、スタッフと相談の上9合目からの背負い搬送となりましたが、難しい判断でした。
結果的に大事には至らず、翌日にはその生徒さんの症状も軽快して歩行可能になりましたが、むしろ人を一人運ぶということがいかに大変かを目の当たりにしました。
今まで、搬送は実習のみで実際の山行で行ったことはありません。今回は屈強なスタッフの男性が大勢居ましたし、もろもろの状況を総合的に評価した結果こうした選択となりましたが、それでも思っていた以上に大変な作業でした。
病院など設備の整ったところでならできることが、山の中ではその半分もできないことが多い中、ケースバイケースでいかに最良の選択をするか、それを医学的な側面も含め判断するのが私たち山岳医の役目です。
傷病者だけでなく、搬送にあたるスタッフが怪我をしたり体調不良を生じるリスクについても考えなければなりません。
山岳救助では傷病者の安全より救助者の安全が優先されます。
この他にも、もっとこうした方が良かったのではないか、この判断はどうだったのか?と考えさせられる、勉強になることは数多くあり、実地経験を積むことの重要さを痛感しました。

下山日。達成感に満ちた高校生たちの後ろにスタッフの山脈がそびえたつ
またこのイベントのもう一つの魅力は、高校生という若いエネルギーの塊と直接触れ合えることです。
普段の生活ではまず関わることのない世代たちとの濃密な三日間には新たな発見が盛り沢山です。

行き帰りのバス車内や山小屋の夜には、経験豊富で魅力的なスタッフの方々との交流もまた濃密な時間です。
田部井淳子さんが掲げた目標は、登頂高校生1000人達成。今年で575人が登頂し、プロジェクトはまた来年へと続いていきます。
今後もこの素晴らしくも楽しい企画のお役に立てたら嬉しいです。

名物の富士宮やきそばは鰹でなく"鯖節"がかかるのがポイントだそう
みなさんお世話になりました!
三日間お天気に恵まれて本当によかった!