2022/07/29
東北の高校生の富士登山に参加してきました。

東北の高校生30人、富士山登頂「一番つらかったけど、達成感」
2022年8月27日、今年もまた、東北の高校生たちが自らの意思と自らの足で富士山頂に立ちました。
東日本大震災の翌年、2012年から毎年この時期に開催されている本イベント。私は2017年から山岳医として関わらせていただき、コロナ禍で中止となった2020年を挟んで今回で5度目の参加となりました。

山岳医としてお客さんを山頂へ導くサポートをする仕事は、私が一番やりたい仕事ですが、「東北の高校生の富士登山」は毎度特別な感慨があります。

このイベントは学校主催のイベントではないから強制ではなく、みなさん自分の意思で参加を決意し、親御さんのゴーサインをもらって申込みをします。登山用品は一式レンタルできるため、登山経験はおろか、運動経験のない高校生でも参加は可能です。そして大人のスタッフたちの手厚いサポートのもと、さまざまな思いを胸に山頂を目指します。大人と子供の境目にいる高校生たちが、みな下山後にその顔つきを変えるのもとても印象的です。

私がはじめて富士山に登ったのは防衛医大1年生のときの訓練(つまり強制)で、その後自分の意思で登山をはじめたのが大学4年生の終わりでした。そんな自分の高校生のころ(完全なる文化系)のことを思い返せば、本イベントに参加した高校生たちが「一生の思い出になる」「自信を増す」「自己肯定感を得る」と口々に言うのを聞くにつけ、さぞかし精神的インパクトの大きな体験であろうと確信するところです。
そうした意味で、このイベントでの山岳医としての仕事には、ただお客さんを山頂へ導く仕事とはまた違った面白さがあります。そして、毎年ここに集う精鋭スタッフの方々とお会いできるのも大きな楽しみの一つでした。
しかし今回は自分自身に不安がありました。開催の3週間前、産後2ヶ月と1週間で登った八ヶ岳編笠山では、かなりゆっくり登ったにも関わらず大きなダメージを受けました。

階段2段分以上の段差は骨盤が痛くて越えられず、下りもダブルストックに8割くらいの荷重をかけて一歩一歩丁寧に降りないとならないので、コースタイムをオーバーするほど時間がかかり、体力的にもこたえました。翌朝は恥坐骨部の痛みで起き上がるのも辛く、「やってしまった・・」と萎えました(笑)。
一瞬、「無理せずペコマにピンチヒッターをお願いしようか」とも思いましたが、やはり行きたい気持ちがあったので、その翌週には実際に登る富士宮ルートに事前登山に行ってみました。
編笠山を登った経験から、「何度も登っている山でも今の自分にとっては初登山と同じ」ということが分かったので、実際登る富士宮ルートがどのくらい険しいのか、スタッフとして高校生たちをサポート可能なのかを確認する必要があると思いました。
結果、編笠山よりもだいぶ段差が小さいこと、また、高所なので、登るスピードが遅くても周りの登山者とそれほど変わらないスピードになること(笑)などを確認でき、走り回ったり歩荷とかはできないけど、医療班として最低限のサポートなら可能だろうと思えました。また、3500mくらいまでは順化行動も出来ました。
編笠登山では着けるのを忘れてしまった産後ガードルと骨盤ベルトを、富士山では装着していったのも大きな違いでした。

足が「ずりっ」と滑ったりする瞬間が結構痛いのですが、ガードルとバンドでがっちり固定することで、そうしたダメージもある程度軽減できました。

また、授乳中なので、山中2泊の間にお乳を絞る方法も考えなければなりません。山小屋の部屋で搾ることを想定すると手動の搾乳機を使うのがいいと思い、ピジョンの搾乳機を購入しました。

さらに、2泊もあるとさすがに水洗いとかしなければ臭くなりそうです。使うごとに軽く水洗いしたいところです。富士山には水がないので、いつもより多めに水を歩荷する必要があるだろうと思いました。そこで合計3リットルの水道水を水洗い用に歩荷しましたが、結局2泊で500ccほどで足りました。5合目登山口から宿泊する6合目の小屋までは幸いすぐなので、産後最高に重い荷物でしたがなんとかなりました。

登山日は結構な荒天でしたが、高校生たちは粘り強く登り続け、途中降りたいと言い出す子もなく、最終的には30名全員が剣ヶ峰に到達しました。途中、フラフラの学生をサポートする場面では、いつものように荷物を持ってあげたり出来ないし、ダブルストックが手放せないので支えてあげることも満足に出来ず、もどかしかったです。常に隣にいた同じ医療班看護師のやいちゃんに色々お任せしてしまいましたし、私自身のことも気遣ってもらってありがたかったです。本当に感謝感謝でした。




逞しい顔つきになって東北へ帰っていく高校生たちのバスを見送るとき、子を持って昨年までとはまた明らかに違った目で彼らを見る自分にも気がついたのでした。

そんなこんなで、今年もとても楽しい3日間でした。お世話になった皆さん、本当にお疲れ様でした&ありがとうございました!