2018/11/20
Astromanへの道〜Moratorium, El Capitan East Buttress, Rostrum 〜2018 Yosemite レポ
【Astromanへの道】
アストロマンを仰ぐ。
漠然とした憧れはあったものの、これまでそれほど強く意識してはこなかったAstroman。
6月ころ、今回の旅のパートナーであるSさんからYosemite行きのお誘いを受けたとき、提案された目標の1つがこの"Astroman"だった。
今回まで三度足を運んでいるヨセミテだが、ショートルート含め高難度フリーへのトライはほとんどなく、ヨセミテのフリールートのグレード感はまだつかめていない。
かつAstromanは長く厳しく、総合力が試される"tough"なルートの代名詞だ。
雨続きの日本でSさんとのトレーニングをなんとかこなし、少しずつ出国の日が近くにつれ、期待と不安は大きくなっていった。
否、どちらかといえば、期待よりも不安のほうがよりムクムクと膨れ上がっていくようだった。

ギア整理は楽しい時間。
核心2ピッチのうち、自分の担当はEnduro Corner、SさんがHarding Slotということに決定する。
登攀スタイルも、数ピッチずつリード交代+フォローユマールとか、フォローはFIXをマイトラ2個で一人登りとか、アタック方法もワンプッシュか前日FIXかなどなど、検討を重ねた。
結果、私が奇数ピッチ、Sさんが偶数ピッチ担当でつるべ+セカンドビレイ、荷物は60m細引きで荷揚げ、初日に3ピッチ目までFIXして翌日プッシュという方法に決まった。

"Moratorium"でのヒトコマ。6-7mm程度の60m細挽きを荷揚げに使う。敗退など万一の際はロープ1本懸垂下降の回収にも使える。細挽きは絡みやすいので常に袋に入れて携行する。

フォローユマール(もしくは一人登り)の際はセカンドはアンザイレンせず、ロープは垂らしっぱなし。リードをビレイするときはマイトラで必要分だけ引き上げる。
ショートルートに行ったり、Moratorium+East Buttressの継続、Rostrumといったマルチピッチへ行ったりして早1週間が経過し、ヨセミテの花崗岩、ヨセミテのスケール感にもだいぶ慣れてきた。
グレードに関して言えば、5.11前半ならOSできたりできなかったり。5.11cがついているが"悪い"と言われているButterballsは、結局1日で3便出してRP出来なかった。

"Butterballs"は私のお粗末なフィンガージャムを1ランクアップさせてくれた。
10/26、金曜日の夜。Camp4は毎週お決まりのどんちゃん騒ぎだ。
明日、いよいよEnduro Cornerと対決する。

巨大な肉で筋肉を修復!
果たして自分の力がどれだけ通用するのだろうか?
もちろん不安もあったが、この時にはすでに、出国のとき抱えていた弱気な気持ちはほとんど失せ、ただただ楽しみな気持ちで心が満たされていた。自分の力が通用すればもちろん嬉しいが、こてんぱんにされるならそれもまたよし。
自分にできることは、この広大な花崗岩の聖地に胸を借りる気持ちで、ただただ実力を出し切るのみだ。
それ以上でも、それ以下でもない。極めて単純だ。
心は澄み渡っていて、遠くで聞こえるギターの音も大合唱も、心地よいBGMとして私を眠りに誘ってくれた。
待ちに待った瞬間は、もうすぐそこだ。
【10/20、Long Multi-pitchで力試し〜Moratrium+East Buttress】

Moratorium 2ピッチ目フォロー中のSさん。
El CapitanのEast Buttress11ピッチ(SuperTopoでは13ピッチ)を、El Cap 前衛壁であるSchultz's Ridgeのマルチ"Moratorium"から繋げて登ると、5.11を含む計15ピッチのロングルートとなり、「Astromanの前哨戦にいい」とトポにも書いてある。
East Buttress自体は前から行ってみたかったし、5.10d,5.10d,5.11b,5.9というタフな内容のMoratoriumからの継続とすれば更に充実するだろう。そしてこのロングルートにどれくらいの時間がかかるかによって、Astromanにかかる時間もだいたい予想がつくことになる。
朝4時半起床。日の出は6時半。取り付きまでのアプローチは前日偵察してしっかりケルンも追加しておいたのに、暗い中歩いたら迷ってしまった。それでも6時45分くらいには登攀開始となった。
はじめ1、2ピッチは私が連続リード。1ピッチ目はぐいぐいレイバック、朝一で岩も冷たく快適だった。2ピッチ目はクラックの中が湿っていて「あれ?」と思ったが、最後の核心部はシビれるステミング。声が出た。どちらもとても面白いピッチをひとまずOSできた。

Moratorium 2ピッチ目終了点にて。
終了点でビレイしていると、上で"Rope!"とか言っているような、なにやら複数人の声が聞こえてきて、ほどなくしてロープが落ちてきた。その後3人のクライマーが懸垂下降で降りてきた。聞くと、East Buttressが5パーティ待ちとかで敗退してきたらしい。East Buttressの敗退はアプローチを歩いて降りるより、ここを懸垂してしまう方が早いんだそうな。快適なビレイ点が一時ごった返す(笑)。

Moratorium 3ピッチ目。見た目も内容もNice!
3、4ピッチはSさんの連続リード。核心の5.11bのレイバック部分は、先ほどのクラック内の湿りがさらに酷くなった感じで明らかに悪かった。もう1ヶ月とかいうレベルで雨が降っていないというのに何故だろう?Sさんはそこでテンション。4ピッチ目はOSで抜けて行った。

核心部は極細!なぜかじっとりと濡れていた・・・
East Buttress取り付きについたのは11時すぎだった。Moratoriumの4ピッチだけで4時間半くらいかかったことになる。
食事などして、11時半過ぎにEast Buttressスタート。でも遅くなったおかげで順番待ちはなく、終始快適に登ることができた。

朝作って来たサンドイッチを頬張る瞬間、至福の時。
East Buttressはフォローが荷物を担いで普通につるべで登った。Sさん先行で、繋げられるところはなるべく繋いで時間を稼ぐ。この頃には太陽に照りつけられてなかなかに暑かったが、風もあってそれほど脱水にはならずに済んだ。2ピッチ目の5.10bもしびれたし、5.9+のランナウトOW(#4があればランナウトせずにすむ)は全力だったし、最終ピッチ手前のトラバースピッチも高度感が素晴らしく、全体を通してとてもいいルートだった。

3ピッチ目終了点の大バンドから、The Nose方面を見やる。

連日何かしらのワイドムーヴが出てくるヨセミテ。C3fitのアームカバー重宝しました。

高度感が素晴らしい!GoProは電池切れなどなんだか調子が悪く、旅の後半はほぼ全てスマホ写真になってしまった。

トラバースピッチ、露出感満点!ビレイヤーの目には、Half Domeをバックに空中に浮かぶ私の姿が見えていたそうだ。
2人で全ピッチOSを果たし、最後の大テラスで日没となった。やはりこの季節は日が短い。
最終ピッチはヘッデンクライミングで19時15分トップアウト。全15ピッチ、ロープスケールにして約600mに12時間35分を要した。

最終ピッチ手前のテラス。夕焼けに染まるHalf DomeにEl Capitanの影がかかる。

長い1日だった・・・!
たとえ5.9とか5.10台でも、1ピッチごとが長いし、内容も濃いし、OSトライとなると時間がかかってしまう。
Astromanは11ピッチでうち4ピッチが5.11ということを考えると、やはりOSトライのワンプッシュはほぼ絶望的と思えた。
懸案事項だったEast Ledgesの下降は、途中彷徨ったものの、最終的にはなんとか無事懸垂ポイントにたどり着けた。
直前に行っていた人から降り方のコツを聞いていたのと、トポの文章もよく読んで、とにかく踏み跡と次のケルンを探し注意深く降りた。2年前のノーズの時の記憶はほとんど役に立たなかった(笑)が、ヘッドライトでも降りられることが分かった。
Camp4に戻ったのが22時半。へとへとになったが、充実した1日だった。
【10/22、Rostrumへ】

Sunday MorningはMidnight Lightning前で無料のコーヒーサービス!

美味しいパンももらえちゃう♡ 朝9時くらいに来てくれるので、朝ごはんは控えめにして(?)待つべし!
East Buttressの翌朝はゆっくり起床。とくにレストと決めていた訳ではないけど全身疲労だし、手足はむくんでるし、結果的に1日ゆっくり過ごすことになった。夕方、Rostrumの取り付きの偵察へ行って、夕飯は肉を焼いて早めに寝た。
Rostrumに行こうと言ったのもSさんだった。Sさんは前回1度登っているそうで、今回は最終ピッチをRostrum Roofの"Original Finish"で登りたいという。最終ピッチはルーフ下を右へトラバースして5.9OWから抜けるのが一般的だが、ルーフにはクラックが2本走っており、今回挑戦するのは左のフィンガークラック、5.12bのラインだ。
そして、最終ピッチをのぞけばルートの核心部となるのが4ピッチ目の5.11c、こちらも美しいフィンガークラック。
このピッチのRPもSさんの今回の目標だ。ピッチのスタートは大きいテラスなので、時間があれば私もトライしたいところだが、まずは1〜3ピッチの連続リード、これをall OSすることが私の目標となった。
5時起床、さっさと朝ごはんを済ませて駐車地点へ行き準備をしていると、あとから車が1台やってきた。Rostrumかと聞かれ、そうだと答えると、彼らは車に乗って引き返して行った。敗退が容易なこのルートは難易度の割に取り付きやすく、混雑する人気ルートだということがあとで分かった。早めに起きてよかった。

「これかー!!」
懸垂地点から4回の懸垂下降で取り付きへ。見上げたRostrumのかっこよさと威圧感から、一目で「これか!」と確信すると同時に感嘆の声が出た。すごい。こんなのがゴロゴロしているここヨセミテは、やっぱり普通じゃない。

つ、つかれた・・・
7時40分、リード開始。自分としては1日休んでリフレッシュ出来たつもりでいた。でもいざ取り付いてみると、ひどく体が重い。レイバックに早くも前腕が悲鳴をあげている。疲れが全然抜けてない・・・嫌な予感がした。
1ピッチ目は一部ラインを間違え、ランナウトしながらのかなり悪いムーヴに消耗。更にトポの読み違えで終了点を間違え、そうこうしているうちに後続がやってくる。少し焦りながらの2ピッチ目は5.10dのトラバースから5.11aのシンクラック。悪い箇所はそれほど長くなく、オブザベもハマって核心は抜けた。しかしその後の長い5.9レイバックも体が重くよれよれだった。165 feetある3ピッチ目も5.10前半ながら非常に疲れて、大テラスに着く頃には予想以上の時間がかかっていた。

4ピッチ目フィンガーはButterballsに負けず劣らぬ美しさ。必ず再訪してRPしたい。
OSは出来たが・・・登攀速度が遅すぎる。自分の不甲斐なさに打ちひしがれ、4ピッチ目のリードは諦めることにした。
4ピッチ目はSさんがあと1歩のところまでせまるもRPならず。このテラスで後続が追いついてきた。しかし驚いたのは、はるか地上まで後続が連なっていることだった。ひえ〜・・・早めに起きて本当によかった。。。

5ピッチ目リード中のSさん。ここも簡単ながら美しいハンドクラック。北向きのRostrumは強い日差しにやられることなく1日快適に登れるのも魅力だ。

6ピッチ目はじめのトラバースはリードだとかなり怖い。
続く5〜7ピッチ目もSさんは順調にRP。しかし6ピッチ目の5.10aOWは難しかった!私はフォローで、膝が入らなくなるところでフォール。Sさんのワイドの上手さには脱帽だ。7ピッチ目の5.11bも素晴らしいピッチだった。どのピッチもバラエティ豊かで面白い!
最終ピッチ、RostrumルーフのOriginal Finishは5.12bとは思えない悪さだった。Sさんもルーフ抜け口でテンションがかかってからは各駅停車。フォローの私もほとんど何も出来ずに這い上がった。

Rostrum Roof!

ルーフの下は250mの切れ落ちた空間!後続パーティの数がヤバい〜

ひじょーーーに厳しい、薄かぶっていて足も弱点もないフィンガークラックでした!
Descentはちょっとした段差を懸垂下降したら、あとは車まで這い上がるだけと超お気軽。Descentに不安がないと登攀中のストレスも全然違う。Astromanは暗くなってからのNorth Dome Gullyの下降がかなりの懸案事項なので、そういう点でもRostrumは非常に取り付きやすいルートだと思う。
【3週間は意外に短い】
2つのマルチを終えて、Astromanへのトライ方法は決まった。North Dome Gully下降の下見についても直前まで悩んだが、2日間のトライなら明るいうちにトップアウト出来るだろうということで、行かないことにした。

ボルダーセッションは楽しい!
Rostrumのあとは、ボルダーセッションに混ぜてもらったり、Cookie CliffのNabisco WallやTales of Powerなどのショートルートを楽しんだりして、気づけばツアーも折り返し地点に近づいていた。Salatheに行くことを考えると、Bigwallが帰国のギリギリでは都合が悪いので、もう来週のうちに荷揚げを開始しなければならない。そこから逆算すれば、明日、明後日にでもAstromanトライしなければ時間が足りないことが分かった。自分の中でなんとなく、まだ先かなと思っていたことが急にやって来た感じだった。

フリークライミングは厳しくやりがいがある。でもやっぱりヨセミテに来たらコレを登りたい、その気持ちは強かった。
これまでの2本から、ヨセミテのマルチは相当疲れることが分かったし、本気トライであるAstromanの前は2日くらい完全レストしても良いくらいだと思っていたが、実際にはそんな暇はなかった。
10/26、丸1日レストして、翌日day1のトライ開始となる。

トレイルMIX &バナナパンケーキ!
パンケーキを食べて、シャワーを浴びて、マウンテンショップで70mのスターリンロープをゲットした。
洗濯して、ギア整理とパッキングを完了。

アイスも食べた。Nabisco Wallの"Butterfingers"と同じ名前のアイス!
早めに寝ようと思っていたけど、おなじサイトを共有しているクライマーが誕生日とのことでパーティに参加した。
肉を焼いて、ワインも飲んだ。

2ポンド超味付き肉。これにて自己肉調理最大重量を更新した。
ま、明日のトライは昼からだから、いっか。
赤々と燃える焚き火を見つめながら、満ち足りた気持ちでまだ見ぬAstroman、Enduro Cornerに思いを馳せた。

スーパーのタルトで即席バースデイケーキ♪
<To Be Continued...>
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