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アラスカ遠征一年目終了

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どーーん。
とムースがお出迎えしてくれるAnchorage空港。



アラスカからは5/25に帰国しました。
今回の遠征では得たものも失ったものもありました。ですがそれらは単純に差し引きで考えられるようなものではありません。


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今回の遠征メンバー、"Team AOONI"の3人。Talkeetna Air Taxi駐機場にて出発前。


得たものは経験だったり教訓だったり悔しさだったり、質量はないけれどそれなりの価値は見出せるもので、
失ったものは登攀ギア、氷河の上でひたすら待ち続けていただけの"時間"。


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Mt. Hunter "Moonflower Buttress"のための装備たち。


ギアについては、総額(パーティ全体)にして50万円程度とわかりやすい数字で表すことができます。かけがえのないものを失ったわけではないけれど、喪失感は大きい。
そして、"時間"は人生においてもしかしたら最もかけがえのないものかも知れませんね。


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ランディング初日。超かっこいいMt. Hunter 北壁をバックに。


パートナーたちも冗談交じりに、「なんてコスパの悪い遊びだ!」「やってられん!」と悪態をついていました。
それでも、また行きたいって思ってしまうのはやっぱり病気なんでしょうか・・・
それとも、悲しいかな、これが本当にやりたいことだという確固たる証拠なのでしょうか。


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Anchorage空港には私だけ24時間早く到着。リアルな剥製がたくさん。


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"エアビ"しやすい空港です。

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買い出し風景。Walmartはみんなの味方。


4/27、アラスカ州の玄関口であるAnchorage空港にパーティ3人全員が集合し、その日のうちにデナリ国立公園の玄関口であるTalkeetna入り、そのままセスナに乗って夕方頃には氷河の上にいました。


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ベースキャンプとMt. Hunter。


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キッチンテント。掘りまくってツエルト張りを試行錯誤。ちゃんと作らないと寒い日や天気の悪い日はキツい



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天気がよければ外で炊事!


入山直後は気持ち悪いくらいのどピーカンで、これから3週間のクライミングに思いを馳せていました。


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4/29、Moonflowerへ!


ランディングの翌々日には早速、今回の大本命であるMt. Hunter北壁"Moonflower Buttress"に取り付きます。
付き合いはそれなりに長いけれど、今回のために一緒にトレーニングを積んできたわけではない3人なので、はじめは肩慣らしを、という意識がみんなの中にありました。


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出だしのベルクシュルントはギャップが大きすぎて、リードは右から大きく巻いてトラバース。フォローはユマールハング越え。


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2ピッチ目は氷壁。


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3P目は傾斜の強い雪と岩のミックス。M4ってこたあないでしょ、という感じでした。ラインは合ってそうだったけど



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4P目、大トラバース中。はじめの4ピッチ、どれも70mロープでいっぱいでした。


この日は4ピッチ目まで試登して、終了点を構築し3泊分のアルファ米、4日分の行動食、シュラフ、ウインドバーナー、ガス缶の入ったザックをデポしました。


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4P目にデポのカリマーザックちゃん。


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懸垂下降。登攀ラインの右に、ナッツで作られた支点が50〜60mおきくらいに作られていてそれを辿った。傾斜が強い


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取り付きにて登攀ギアをデポ。積雪でロストしないよう、デブリ跡のない雪面に埋め、先に旗をつけた3mくらいの竿を用意


天気予報はカヒルトナベースキャンプにあるエアタクシーの会社のテントで聞くことができます。
それをあてにして、今回は衛星電話もラジオも借りずに氷河入りしました。しかし実際はかなりざっくりな、あまり当たらない予報しか入手できませんでした(たとえば"couple of days snow"みたいな)。


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Lisaともう一人のお姉さんが2人で2週間交代でシーズン中まわしているんだという詰所


そしてその情報に振り回される結果となり、私たちはどうやら唯一の、かつ今シーズンは私たちだけに与えられていたチャンスを逃したようだと、入山1〜2週間後にやっと気づくことになるのです。


試登を終えてベースキャンプに戻ってからは地獄のような"待ち"の日々でした。
今シーズン、Moonflower Buttress登攀を狙っていたパーティとしては私たちが一番乗りだったようですが、数日後から他パーティもぽつぽつと入山してきました。でもその頃には、ランディング初日のような青空はなく、ハンター北壁の姿もいつのまにかガスの中に消えており、「壁、見た?どうだった?」とみんなから聞かれる状態でした。
そして降っては止み、1日か2日しかもたない晴天、また降って、と、壁はみるみるうちにまっしろけになって行きました。
その雪が安定する間も無くまたストームに近い降雪がやってくる。
取り付きにデポしたクライミングギア一式も完全埋没しないかどうか不安で、雪が落ち着いたタイミングを見計らっては埋めなおしに行っていました。そしてそれ以外の時間はひたすら読書をしたり、動画をみたり、ご近所さんとお茶会をしてストレス発散したり。
運動といえば、1日1〜2回の雪かきと、数日おきにキッチンやトイレを作りなおすための穴掘りくらいでした。


これが、入山してから2週間の生活の全てです。


そうして3人パーティのうちの1人、Tくんは時間切れとなり、失意のうちに氷河をあとにしました。


その後も、通常なら訪れるはずの数日間の好天周期というものはついぞ訪れず。たまにガスが切れて壁が見えると、真っ白に様変わりした壁からはスノーシャワーがひっきりなしに落ちていました。ずっとお隣さんで、GarminのinReach Mini(衛星端末)を利用して友人から得た天気予報を親切にもいつも教えてくれていたシャモニパーティも、それ以外のMoonflower狙いパーティも、誰もが登攀を諦めるなか、これが最後のチャンスと、私たち2人は入山3週間目にやっとアタック日を定めました。


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Mt. Francisと、お隣の親切なシャモニパーティ。ガイドの夫婦で、レスト日には颯爽と滑ってた。


新たに50cmくらいの降雪があった翌々日のことでした。
朝3時に起床し朝食と準備を終えて出発。久しぶりの清々しい朝日に意気揚々と、何度も往復したアプローチを空身にスキーで約1時間。取り付きへつくと・・・


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激しく真っ白けになってしまったMt. Hunter北壁。


デポしたギアの印として立てておいた2m以上ある旗竿が、跡形もなく消えていました。
雪崩の形跡も全くない、ただただ真っ平らな雪面。
その前にギアの無事を確認した日からそれほど時間は経っておらず、その間に降った雪もさほど多くはありませんでした。
こうなることを少しも予測しなかったわけではないけれど、今回ばかりは「埋まることは絶対ない」という確信みたいなものがありました。それなのに・・
急に吐き気を感じ、(脱水かな、そんなに汗かいてないけど・・)と思いつつ水を飲んでいると、パートナーも横で「なんだか気持ち悪くなってきた」と言っている・・
ただ氷河の上で食べて寝て排泄して、3週間も待ちに待ってやっと迎えた「クライミングができる!」はずだった日の朝に、我々は山の神様から見放されたようでした。


その後もめまいと吐き気(笑)を我慢しながら、ひたすら雪面を掘り返しまくりました。
なにもかもが、あとになって思うことばかりです。
ギアを埋める時、ビーコンを一緒に埋めておけばよかった。
せめてケータイのGPSログで位置を記録しておけばよかった。
否、はじめから取り付きにデポなどしなければよかった・・・


どうしてないんだろう、と狐につままれた気分になるほどに、ギアは見つかりませんでした。
そうして私(たち)のアラスカ一年目は終了しました。


1週間くらいで気持ちの整理がついたようには思っていましたが、今の今までブログを書く気が起きなかったのも事実で、これが現実だと受け止めるのは辛いことでした。


でも、誰も死んでいないし怪我していない。
だからただの笑い話ですね。



「ギアはもう出てこない。99.9%、見つけ出すことは不可能」

そう悟った私たちは、はじめ氷河からフライアウトして街に出、登攀ギアをかき集めようかとも思いました。
でも残り日数が少なく、Anchorageまで戻る時間はありませんでした。そしてTalkeetnaで手に入るギアはデナリの一般ルート用のものだけでした。


デナリのパーミッションをとっていた私たちは、残りの4日ほどでデナリへも行きました。
最高到達地点はCamp4(14000 foot Camp)。
今回順調にいったら登ろうと思っていたWest Ribの気持ち良さそうな稜線が見通せました。


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11000 foot Campまではソリをひいて。


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かなり軽量化して行ったけど、ソリに翻弄されました。日数がないのではじめの2日は寝ずに歩いて24時間行動。


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Windy Cornerまで行ったのに、寝ぼけた頭でノートレースに怖気づき、結局11000 foot Campまで引き返して宿泊。その時点であわよくばの登頂(笑)は諦め、翌日、空身で14000 foot Campまで行きました。West Ribめっちゃ気持ち良さそう!



3週間ずっとベースキャンプにこもっていたので、3週間ぶりの外の世界がとても楽しく、山登りはやっぱり楽しいと思った瞬間でした。


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悪天予報に翻弄され、数日はやくフライアウト。3週間洗ってない髪は重力に勝つ!


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Talkeetna Air Taxiのパビリオンで荷物整理。まっちゃんが黒すぎて見えない


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1泊はタダで泊まれる、Talkeetna Air Taxiの宿泊所を利用。


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シャワー、キッチン、2段ベッドあり。みんなが置いて行った共有食料もあり


私たちは壁にデポ品を残してきてしまいました。
このゴミを回収しに行きたい、というのは建前で、本音は、やはりあの壁を登りたいという気持ちです。
素晴らしく垂直で巨大な白と黒のコントラストの中に、素晴らしく美しくひかれたラインだと思います。
実物を見て、やっぱり登りたいという気持ちが強くなりました。
来年も行きたいけれど、家族が一番大事だから、旦那さんとよく話し合って考えたいと思います。


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去年はロストバゲッジのせいでそもそもパートナーと合流すら出来なかったため、この人気ピザ屋"Moose's Tooth"も一人で来ていた。そのとき横目に眺めるしかなかった、みんなが美味しそうに食べていた念願の巨大ピザがこれだ!



さて、まだまだこれからも私の珍道中は続きます。
5/25に帰国後は、6/3から10日間仕事でヨセミテに行っていました。
つぎは来週から、旦那さんのいるイギリスへ2度目の訪問です!

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プロフィール

chippe

Author:chippe


肉好きchippeのブログへようこそ!
2006年10月 山歩きを始める。
2007年9月 クライミングを始める。
山岳同人「青鬼」所属。
「メラメラガールズ」所属。
国際認定山岳医。
「カリマーインターナショナル」アンバサダークライマー。
現在は無職、旅人。
旦那さんはpecoma。

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