2019/09/20
フィールドアクティビティにおける女子トイレ事情 〜クライマー的、医学的観点から〜

生物学上れっきとした女子である筆者は、大学4年の終わりに登山に目覚めてからというもの、これまでずっと山に関わる様々なフィールドアクティビティに興じてきました。

無雪期や残雪期の山歩き、百名山ハントにはじまり、ロッククライミング、無雪期のバリエーション登山、沢登り。少しずつフィールドを広げて行き、ビッグウォール、アイスクライミングや冬季登攀、バックカントリースキーもかじり出し、ごく最近ではトレイルランニングにも興味を示して収拾がつかなくなっています。身体が最低でも2つはほしい(笑)。

そんななか、フィールドでのトイレ問題というのは常につきまとってきました。男性ならそれほど問題にならない場面でも女性にとっては時に致命的にもなり得ます。

この記事では、私自身の経験と独断およびこのテーマに関してよく纏まっていたREIの記事(最下部に記載)に基づいて、そんな女子のトイレ事情について思うことを書きたいと思います。
そして、私は(一応)医師でもありますので、医学的な視点も附記出来ればと思います。
コンプライアンス遵守の精神に則り(笑)、舞台は"どこか海の向こうの国でのアルパインクライミング"としましょう。
もちろん"海の向こう"であっても、トイレがあるところではトイレでする(努力をする)し、止むを得ず"そこらへん"でする際には環境に配慮することが大前提です!

さて。前置きが長くなってしまいましたが、ひとことでいうと排泄の面で女性は男性と比べ圧倒的に不利です。
第一の理由はもちろん、泌尿器系の形の違いです。リーチや体格差についてなら、必ずしも女性のほうが不利とは言い切れませんが、この点に関してだけは女性が絶対的に不利と言えるでしょう。
それにもちろん、社会的な問題、羞恥心なども付け加えて然るべきでしょう。コアな女性クライマーの方々はそこらへんはあらかた解決済みかと思いますが、常識的な羞恥心は無視できない問題です(笑)。
形の違いで女性が不利になるのは主に2点。1点は、排尿のしにくさという利便性の面。そしてもう1点はもっと重要、衛生面です。
女性は男性ほど排尿が容易でないし、尿路感染症にもかかり易い。これが野外女子トイレ事情の悩みのタネです。
では、みなさんどのようにしてこの"不便"を克服し、大好きなクライミングを楽しく続けているのでしょう?
以下、場面ごとに考えてみましょう。

1."pee-bottle" 通称"ションポリ"のおはなし。
悪天候時の冬山や高所登山など、テント内で用を足さざるを得ない時があります。そんなとき男性は"それ"をひょいと取り出して、尿器、俗称"ションポリ"なるものに突っ込んでしまえばハイ、終わり。失敗することはまず無いんじゃないでしょうか(予想ですが)?

しかし女性の場合そうはいきません。解剖学的に外尿道口がかなり奥の方に引っ込んでいて、かつ小陰唇と呼ばれるヒダの中に隠れています。生々しい話になってしまいますが、これは悲しくも無視できない現実です。
狭いテント内で小さな的めがけて排尿するのは生易しいことではなく、練習と慣れが必要になります。
そんな女性の尿路の構造を理解すると、テント内での排尿は、ひざまづいて、"ションポリ"を適切にあてがって、行う必要があります。
そこでまず、用意すべきマイ"ションポリ"の口は直径7cmくらいのものを推奨します。
これは私が勝手に推奨しているだけですが、外性器全体を覆えてかつ肛門は外せるくらいの大きさとなるとこのくらいです。
外性器が複雑な形状なので、これより小さいとどこかしら漏れる可能性があり、これより大きいと肛門にかかって不潔になります。
REIの記事では👉コチラを推奨していますが、私もこのナルゲン容器はおすすめします。
ただ、2.8Lは大き過ぎると思います。これの1Lタイプが日本国内でも売っていますのでそちらを推奨します。

一般的な成人の1回尿量は200cc〜400cc、1日に1500cc程度ですが、高所や寒冷地では高度順化、低体温症・凍傷予防などの観点から積極的に飲水すべきで、その場合は尿量がこれより多いかもしれませんし、ダイアモックスを内服しているとさらに多いでしょう。
ションポリの容量が500ccだと下手したら1回で捨てに行く(テントの外に出る)必要が生じます。でも2Lは多すぎ。そんなに溜め込んでいたら雑菌も繁殖しやすくなります。
それに、1L以上尿が入った重たい容器をあてがって、うまくいかないなってやっていて、もしひっくり返したら・・・。考えたくもありません(笑)。
1Lくらいが妥当なのではないかと思います。
ちなみにこのナルゲン容器のように柔らかい素材でない(ボトルタイプなど)ものを使うときは、ひざまずいてあてがう便宜上500cc程度が限界かと思います。(移し替える別容器があれば外へ捨てに行く手間も省けます)
どちらにせよ、練習なしぶっつけ本番だとテント内で悲しい思いをするので、お風呂場などで練習してから使いましょう。

老婆心ながら、冬に多量のアンダーウエアなどを着込んだ状態で、狭いテント内でやろうとすると意外と難しいです。なかなかうまくいかない人は、恥ずかしいでしょうが一度鏡で自分の"解剖学的構造"をよく観察して理解し、再トライすることをおすすめします。
それとREIの記事にも書いてありますが、"ションポリ"には消えないペンなどで派手に印をつけておいて、決して普通の水容器と間違えることのないようにしましょう(笑)。

2. "funnel" "じょうご"のおはなし。
大便なら男女に差はないものの、女性は"大"より回数の多い"小"でさえ、下半身を露わにしなければなりません。それが吹雪の中であっても、断崖絶壁でも。とくに冬は衣類が濡れたら大問題です。背に腹はかえられないから、勇猛果敢に下半身を露出するしかありません。また、同じ理由から、通常は"羞恥心"というか男性メンバーへの"心遣い"から、女性は他のメンバーから見えにくいところまでわざわざ移動して排尿しがちです。それが安全上の問題を生ずる可能性もあります。

この問題を解消すべく、じょうご型の女性用尿器がいくつか販売されています。使っている方も周りに何人かいらっしゃいます。これを"適切に"あてがって、チューブの先端を服の外へ出すことにより、男性と似た形で、ズボンをおろさず用を足せるというものです。

REIが紹介する女性用尿器の一例※この他にも多くの類似製品が(欧米では店頭で普通に)売られていますが、国内ではみたことがありません。通販で買えます。
しかしこれもかなりの練習が必要です。また、用を足した後はこの尿器を拭くか何かして清潔に保つ必要があるでしょう。
実は私も数回これを試したのですが、あまり好きになれず使うのをやめてしまいました。理由は以下の通りです。
・思った以上に難しい。時間がかかる。
・これを使い始めるより前に、サッとズボンをおろして素早く用をすませる術を身につけてしまったため、あまり必要性を感じなかった。
・野外で使用後、尿で濡れたコレの処理も面倒。(拭くための紙とか、これを入れる袋を用意したりとか)

ちなみに、私は普通のロッククライミング(マルチピッチなど)のときはハーネスを履いたまま小用を足せます(=ハーネスを履いたままズボンを下ろすことができます)。また、小用のあとの"拭き取り"はおりものシートで代用しています。そして、この手の複雑な作業は冬季登攀中はほぼ不可能と感じます。(かつ、羞恥心はもちろん克服済みです(笑))そのため、このじょうごを自分のクライミングに取り入れるメリットはほとんどありませんでした。
ちなみに、この"じょうご"と"ションポリ"を組み合わせて使うことも可能です。
(REIの記事には、それによりシュラフ内でも出来るようになると書いてありますが、ものすごい上級者とお見受けします(笑))

3. 冬のクライミングのおはなし。
上にも書きましたが、マルチピッチであっても、無雪期であれば、ハーネスを履いたままズボンを下ろすことは難しくありません。まだやったことない!という方は是非練習してみてください。すぐできるようになると思います。
ですが、冬季は今のところ、同じ手法で出来たためしがありません。冬のクライミング中の排尿は未だに私の悩みのタネです。
というのも、私は女性であるだけでなく、人一倍頻尿なのです・・・。そのため、壁のなかで突如として我慢の限界を超えることもしばしばです。

私は以前、2月の北アルプス明神の壁のなかで、不安定で"プア"な支点に3人サクランボ状態となったことがありました。そしてその最中にずっと我慢してきた尿意が限界を迎えました。そのとき、私はこの挑戦的なクライミングを前に、普段よりも下準備をしていて、"おむつ"を履いていました。このときはそのおむつに助けられました。というのも、その夜はサイトに帰ることができず、一晩おすわりビバークをすることになったからです。忘れもしない、谷口けいさんと登ったウィンタークライマーズミーティングでの出来事ですが・・・。
このときおむつがなかったら、私は下半身ずぶ濡れ状態で寒い一夜を明かす必要があり、足指の凍傷などは免れなかったでしょう。
いざという時はこうしたツールも役に立つと思います。

これはイレギュラーな例ですが、普段のウィンタークライミングでは、私は次のような方法で小用に対応しています。
・120cmスリングでチェストハーネスをつくってそちらに荷重をうつし、ハーネスをぬいでヤッケを脱いで露わになってする。
・これらの作業は手袋をしているとかなり時間がかかる。素手になってサッと済ませてしまう方がいい場面もあるので、そこら辺は臨機応変にやる。
・少しでも尿意を感じたら我慢せず早めにするようにする。
でもシビアな登攀では、寒い環境に長時間さらされながらもなかなか排尿のチャンスが訪れないことだってザラです。
冬の登攀時のトイレはいまだに大きな大きな悩みです。はあ・・。(何かオススメな方法がある方は教えてください!)
医療従事者どうしの会話だとここで、「バルーン(尿道留置カテーテル)入れて登りたいよねー」ってところに行き着きます(笑)。

4. 野外でもケアを忘れずに!尿路感染症を予防するために。
女性の尿路は常に感染の危機にさらされています。尿道が短い=膀胱までの距離が短いとか、外尿道口と肛門が近いなどの形態上の理由などがあります。男性のように尿のキレもよくないので、排尿後は拭き取る必要があります。そのままにしておくと皮膚粘膜トラブルや尿路感染症の原因となりますし、現に下着が濡れちゃうからみなさん何かしらで拭いてらっしゃるかとは思います。

私は1日はおりものシート1枚で乗り切り、1日の終わりにウエットシートなどで清潔にして、新しいおりものシートに取り替えています。排尿ごとに紙を使うのは資源とかゴミの問題もありますが、手が汚れたままだとそれがリスクになります。おりものシートなら、服を身につけたあとでちょちょっと吸収させればいいので、クライミングなどで手が汚れたままでも簡単安心です。
その他、陰部を清潔に保つ工夫として、長期間お風呂に入れない環境ではあらかじめ隠毛をきれいさっぱり剃ってしまうというのも有効です。最近では、主に介護が必要となったときに備えて医療用レーザーでVIO脱毛するという人が日本でも増えてきました。無駄な毛(いわゆるムダ毛(笑))がないほうが隠部は清潔に保てます。
また、何をするにもまず、手指の清潔がとても重要です。隠部を拭く時だって、手が汚れていては意味がありません。
手指を清潔にする方法として、医療関連施設でも推奨されているのがアルコールによる手指消毒です。そこで、野外の簡易トイレや山小屋などにアルコール消毒剤が設置されている場合は是非使うようにしてください。以下に正しい手指消毒方法について分かりやすく書いてあるサイトをリンクしておきましたので、時間のある人は見てみてください。完璧にやる必要はないですが、知っていて損はないと思います。

ちなみに、流水による手洗いのときもこれと同じ方法で行います。でも10秒程度の手洗いでは雑菌の除去効果は低く、アルコール消毒に軍配があがるようです。
手洗いについて詳しく書くにはもうスペースが足りないし、テーマが変わるので今回は割愛します。
少しは参考になりましたでしょうか?参照記事1は読みやすい英語なので、英語が苦手でない方は是非一度読んでみてください。
私も野外トイレ最高グレードを更新して、より快適なクライミングライフを送りたいと思います!

参照記事1<GIRL TALK: HOW TO PEE IN THE BACKCOUNTRY>
https://www.rei.com/blog/hike/girl-talk-peeing-in-the-backcountry
参照記事2<手指消毒手順>
https://med.saraya.com/who/tejun.html
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