2020/09/01
2020/8/29〜31 黒部川水系 黒薙川北又谷 遡行〜濃密爽快な3日間の冒険〜
7月の4連休に悪天候で中止した憧れの"五級"沢、北又谷(きたまただん)。次なる遡行チャンスを待つこと1ヶ月、同人青鬼のWくんも誘って、このたび天気も水量も良好な条件での挑戦がかないました。
しかしコンディションがよくても決して容易ではなく、これまでに得た経験技術に加え、気力、体力を存分に問われるがっつり濃厚な3日間となりました。


入渓前からチェックしていた黒薙川の水位記録、我々が遡行した期間は平均73cm程度で、少なめでした。
過去の記録を見るとだいたい水位80cm程度までなら2泊ですんなり遡行出来ており、逆に1mを超えてくるとかなり困難な遡行もしくは敗退を強いられるようです。

今回、行きの車の中で、「事前にどのくらい情報収集をするか」ということがちょっと話題にあがりました。
pecomaとWくんは「もう、調べ過ぎちゃってさ(笑)」というくらい、Web上の記録を研究してきたようです。
対して私は家にあるガイドブック2冊(どちらも豊野さんの記録)と、ほかにブログを3つくらい斜め読みしたのみ。
もちろん、初心者を連れていくとか、ライト&ファストで攻めるとか、計画や戦略によってその程度は変化します。
今回は頼れる仲間が居るというのもありましたが、憧れの沢への挑戦にあたり、情報収集をし過ぎない方が面白いかなという思いがありました。
オンサイトの部分を残しておいて、帰ってきてから答え合わせをするという楽しみ方も、とりわけ自由に遊ばせてもらえる"沢登り"には合っている気がします。難点は、ブログをアップするのにやたらと時間がかかることでしょうか(笑)。

さて、遡行は問題なくこなせたものの、残念だったのは釣りです(笑)。「釣れまくる」はずの北又谷で、今回釣果はまさかのゼロ!!^0^;
サルガ滝の釜での追い込み漁により、なんとか3匹のイワナちゃんにはありつけましたが、竿が折れる(経年劣化っぽい)というアクシデントを抜きにしてもさっぱりの内容でした。。タモ持参してホントよかった!(笑)

ちなみに、「上流ほど魚影が濃い」という噂は本当で、三日目、宗八郎滝から二俣までの間が、遡行中でもっとも魚影が濃く感じられました(小さかったけど)。

登攀用具としては、50mダブルロープ1本&6mm60m細引き(懸垂ロープ引き抜き用)、15mフローティングロープ(荷揚げなど用)、カム(#0.2〜#0.75各1)、ハーケン4(ナイフブレード長短3枚+アングル1枚)を携行しました。
ロープ&細引きにしたのは、巻きで60m程度の懸垂下降をしている記録もあった(かつ軽量化したかった)ためです。
結果、フラットソール(私は刀レース)を持って行った甲斐もあってほとんどの滝を直登できたので、細引きの出番はありませんでした。
唯一懸垂下降したのはサルガ滝の巻きで、約20mだったのでロープ1本で済みました。
ハーケンは三段の滝のネイリングで全て使用しましたが、カムは魚止滝上のアンカー作成以外使いませんでした。
というわけで、ギアはもっと減らせたと思います。

★遡行タイム★
8/29 5:00坂田峠-(タクシー16000円)-越道峠6:15
6:30越道峠-7:00標高1030のコル-8:00入渓-10:00大釜淵-12:45急流の長淵-14:30ミズカミ谷手前の河原
8/30
6:30遡行開始-8:30三段の滝-11:30三段の滝上-12:45黒岩谷出合上-13:00サルガ滝-14:30吹沢谷出合
8/31
5:20遡行開始-5:40宗八郎滝-7:00二俣-10:15稜線上-10:30犬ヶ岳山頂-15:30坂田峠
それでは楽しい冒険の様子を、濃密すぎて長くなりそうなところをグッと堪え、できるだけ簡潔に(笑)。
8/29朝5時。坂田峠に車をデポし、事前に予約していたタクシーで越道峠(こえどとうげ)へ向かいます。

越道峠からは登山道並みに良い道を辿って標高1030のコルまで。

コルから沢を下りて、45分ほどで谷底へ。青白く美しい渓相に心踊らせながら遡行開始!と同時に、河原に比較的新しい足跡を発見。どうやらそう遠くない距離に先行パーティがいるようです!

歩き始めてすぐに美しい魚止滝!さっそくフラットソールに履き替え、まずWくんが空身で登って荷揚げします。

ここではランナーはとらず、上からのビレイは基本、落ちられない最終セクションのみ。落ち口のトラバースは5.7くらいで、沢靴だったら緊張しそう。

今回ライフジャケットはパーティで1つのみでした。こうした大釜で水流に呑まれたとき一番リスクがあるのはラストなので、基本的にライジャケは3番手が着用して登りました。

しかし魚止滝、これで終わりではなく、高台になった落ち口から上流の沢床までがブランクセクションで、ジャンプして滝へ注ぎ込む急流を飛び越えるしかありません。このたった1mほどの絶対失敗出来ないミニジャンプが、なにげに全行程中で一番緊張しました(ロープ確保の上、ザックおろして空身で飛びました)。
続く大釜淵はさすがの大迫力。溺死事故も起こっている難所です。

大釜淵1番手は私。泳ぎ系の沢ではいつも着ているライジャケなしでやや緊張ぎみ。
水流をよくみてオブザベするも、なかなか弱点が見えてきません。

渦流を逃れ、滝左奥の凹角に入ることが出来れば、そこから右のリッジに這い上がって突破できます。しかし凹角手前で必死に掻いても、呆気なく渦流に引き込まれてしまうのです。ライジャケがないせいで頭が沈み、水をたくさん飲みながら、合図して岸でロープを握るWくんに引き上げてもらうこと2回・・。
無念にもpecomaに選手交代すると、器用に凹角へ泳ぎこみ、右のリッジへ取り付いて1発成功でした。
ちなみにリッジの上からロープを出せば、比較的安全に後続を引っ張ることも可能な形状です。リッジ自体はホールド豊富で、取り付けさえすれば登るのは容易でした(この水量なら)。
結局私は3度目も失敗して、お助けロープのお世話になりました。残念無念!

そして本日3つめの核心となる、又右衛門滝。コチラもフラットソールに履き替えて直登。巻くと3時間くらいかかるそうです。ボルダー5級くらい?バランシーで面白い垂壁です。ちなみに、落ちても問題ないけど、上からのお助けはやりにくい形状なので、パーティ全員が自力で抜けられなければ、直登は難しいかも知れません。

がっつりの滝突破を立て続けに3つこなして、まだお昼前。ここからWくんと2人で竿を出しつつ登りましたが、アタリはおろか魚影さえないのでした・・。

急流の長淵から先も、まだまだ深い淵の泳ぎやへつりががっつりと続き、「もしかしてもう白金沢あたりまで来ちゃってる?」と勘違いを始めたころ、やっとミズカミ谷出合手前の河原に到着しました。

新しい焚き火跡を見つけ、1日差くらいで入渓した先行パーティがいるのではとの思いが濃厚になってきます。14時半といい時間だったので遡行終了。ダクトテープで穂先の補修をし、上流へ釣りに行きましたがボウズでした。仕込んできたローストポークやジョンソンヴィルのソーセージなどで29の日パーティをして初日の夜は終了しました。
8/30、遡行二日目。夜中にまとまった雨がありましたが心配された増水はなく、ちょっと寝坊して6時半ころ遡行開始しました。

この日もゴルジュ帯の通過からはじまり、朝一からがんがん泳いで登ります。

白金滝はどれだか分からないうちに通過しており、遡行開始から2時間で本日のメインディッシュとなる三段の滝に到着しました。

ここも巻かれることが多いようですが、エイドで突破もされています。あわよくばフリーで・・と思っていましたが、潔くネイリングを開始できるほどに可能性を感じませんでした(ダブルアックスならいけるかも?)。しかし水から這い上がっての1本目のハーケンがなかなかきまらず苦労し、pecomaに途中交代しながら少しずつ前進します。

ハーケン全弾打ち込んで落ち口と同じくらいの高さまで這い上がるも、最後の最後がちょっとしたブランクセクションに。釜ぽちゃしても怪我はしなさそうなので、両足分のガバスタンスから2mくらい先のちょい斜めった落ち口まで、ジャンプしちゃおうか迷うけど勇気が出ません。ひとしきり可能性を探り、短い足を遠くのガバへ伸ばしたら、なんとか届いてムーヴがつながりジャンプを回避できました(笑)。全員が通過するのになんだかんだで3時間くらいかかったみたいだけど、面白かったから良しとします!

その先の3m滝もちょっとしたボルダーで、空身で登って荷揚げ。行程中、空身で登って荷揚げを要する箇所は他にもたくさんありました。

2泊目の候補地でもあった黒岩谷出合上の河原には12時半すぎに着いてしまったので、流石に早すぎるということで前進。ほどなくしてサルガ滝に到着しましたが、流石にこれは登れる余地を感じません。

と、釜の手前の河原に小さな中洲状の流れ込みがあり、なんとそこに岩魚がウヨウヨ!!毛鉤をうちこんでも見向きもせず悠々と泳ぎ回っています。釣りはさっさと諦めて、岩とザックで袋小路の出口を塞ぎ、追い込み漁作戦に移行しました。pecomaが1匹タモで見事にすくいあげると、逃げた岩魚が5匹くらい、岩の防波堤の中へ・・。岩の間をまさぐると、尻尾だけ出して息を潜める岩魚ちゃんたちのヌメヌメの魚体が触れます(笑)。手掴みとタモを活用して、更になんとか2匹捕獲しました。
最後に釜でも竿を振ってみましたが、毛鉤は食ってくれず、岩陰からぴゅーんと逃げていく大きめな背中を見送りました。
その後サルガ滝は左岸を巻いて、懸垂20mで降りました。

吹沢谷出合付近の河原にいい物件を見つけ、この日も14時半に遡行終了としました。上流へ釣りに行ったけどまたもボウズ。サルガ滝の岩魚ちゃんをさばいて、塩焼きとお刺身に。内臓はアヒージョに。頭と骨はおせんべいに。どれも最高に美味しいのですが、とりわけ胃の旨さが尋常じゃないです。豚や牛のギアラよりも旨味が強くて歯ごたえ抜群。これは極上の珍味ですね。

8/31。この日は4時前に一雨あって、タープも張っていなかったのでそのまま強制起床。ヘッドライトをしまって5時半前には歩き始めました。

もともと3泊で計画はしていましたが、どうやっても今日のうちに下山できるだろうということで、昨夜すべての酒とつまみを放出してしまいました。つまり今日は何が何でも降りるしかありません(笑)。


前半は河原歩き主体でサクサク進みましたが、カナホリ谷に入ってからはお風呂と小滝の怒涛の連続でした。

遡行図には記載が無いですが、ゴルジュ内で終盤、1:1程度の二俣があります。これを左に入ったところから最後の核心部がはじまります。

決して簡単ではない10m級の滝がいくつか連続し、落ちられないクライミングが続きます。どんどん傾斜が増していき、なおもワンポイント、エイドを要する悪いヌメり小滝や、小さいのに巻かざるを得ない垂直滝などが出現しました。最後の最後まで気の抜けない遡行が続きました。

ラストの詰め藪は標高差にしてほんの数十メートルです。しかし、登山道直前の5mくらいが、ハイマツやシャクナゲとの格闘で、まさにラスボスといった感じ。フルパワーでした。登山道に出る瞬間まで、気力体力を全力投球でした。

今回の遡行は、条件が良かったといえど、これまでに経験した中でも特に登りごたえ抜群でした。
それもその筈、これまで盛夏の時期を中心に沢登りをやってきたとはいえ、その回数はせいぜい年間10を超えず、5級クラスに至っては、赤石沢くらいしか経験がありません。
先々週の利根本谷も5級に数えられるとはいえ、今年は最大の核心ともいえる雪渓の処理がほぼ無かったので、実際は極端に簡単になっていたと思われます。
沢登りの難しさは、遡行距離、水量、滝やゴルジュ、高巻きの難易度、傾斜、エスケープの困難度、雪渓通過などの不確定要素やアプローチと下降の長さ悪さなどなど・・・とにかくありとあらゆる要素の総合で決まるものです。
ピンポイントで大滝登攀が難しくても、それはいわゆる"遡行グレード"のほんの一要素でしかありません。
そして当然、上述の様々な要素は不変ではなく、年によっても日によっても変わってきます。
今シーズンはコロナの影響もあって国内に目が向いたことから、増水した沢含め、短期間に集中して様々なタイプの沢に行くことができました。
おかげで、これまで泳力や体格の小ささといった点で少なからぬ苦手意識があった沢登りに対して、だいぶ自分なりの答えが得られてきて、それが今回の余裕を生んでくれたのではないかとも感じています。
そして今回の遡行で更にいい経験を積むことができました。

それにしても、条件が良くてこれですから、北又谷はすごいところです。
そろそろ台風や秋雨の季節がやってきますが、もう少し憧れの沢詣でを続けたいですね!
って、簡潔にとかいいつつ結局長くなった・・・^^;
以下、同行メンバーの(簡潔かつ秀逸)記事も是非ごらんください★
pecomaの唄「北又谷、水線突破で美渓を堪能」
のぼる・すべる「8/29~31 黒薙川北又谷」
コメント