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長閑な秋の日、麗かな春来たる。

正真正銘"一生に一度"しかなくて、絶対に失敗が許されないことって、何だろう。


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大学の入試、コンクールでの演奏、コンペでの1トライ。想像力が乏しくて例えがなかなか出てこないけれど、人生命さえあれば、一度きりと言わず、またチャンスが訪れることのほうが多い。「一生に一度きり」しかないことって、意外と少ないかも知れない。



クラックを始めたのはもう10年くらい前になる(記録を見返してみたら、初湯川、小川山カサブランカのRPが2008年だからもう12年も前!!)けれど、その頃からすでに「春うらら」のことは知っていた。あまりにも有名な瑞牆の看板ルートのひとつ。素晴らしいルートだと誰もが口を揃える。その1P目を苦労してRPしてから月日は流れ、いつしかトラッドの5.12を登ることが特別なことではなくなった頃、「春うらら2ピッチ目」は自分のなかで「いつか絶対にOSしたいルート」へと変わっていった。


でも、人気のルートで周りに完登している人も沢山いるので、普通に過ごしていると情報が入ってきてしまう。だから意識的に春うららの情報をシャットアウトするようにしていた。

ある日、このルートをよく知る友人に「春うらら2ピッチ目はOSにとってある」と話したことがある。するとその友人は「岩の状態がすごく大事だから、しっかり見極めていきなね」とアドバイスしてくれた。状態を見極める。その言葉も、自分の中で日に日に大きくなっていった。


今年はコロナ禍で海外遠征や仕事も全て無くなったから、秋は日本の岩場に集中しようと思っていた。だから「その日」も今年かも知れないと何となく考えていた。
10月後半になり、秋晴れが続くようになってやっと岩場が「じっとり」から解放される。日本でパリパリの花崗岩を触れたのは、2年ぶりくらいかも知れなかった。この花崗岩の"感触"が、あらゆるクライミングにまつわる出来事のなかで一番好きだ。


怪我をして少し落ち込んだけど、少しずつ寒くなり、日も短くなってくるのを感じる。「そのとき」が近付いているのが分かった。グズグズしている猶予はなくなってきている。やるならそろそろ、トライしないと。いつ急に真冬がくるともわからない。


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「山は逃げない」という言葉がある。たしかに山も岩も物理的には逃げるはずがない。だけど、ここでいう山や岩はもちろんそれそのものを指しているのではなく、人間が、クライマー目線で価値付けをしたルートだったりラインのことだ。北岳バットレス4尾根しかり、城ヶ崎のキャデラックランチしかり、山も岩もちゃんと逃げていく。昨今の温暖化で、今後二度と凍らなくなる氷瀑も出てくるだろうし、世界の氷河も着実に減っている。それに、相手側だけでなく自分側のコンディションだって重要だ。
つまり、「山」とか「岩」って表現するからわかりにくいのであって、「チャンス」と言い換えれば良いと思う。「チャンス」は掴まないと逃げていくのだ。


7_1EFCC133-B25A-448E-83E1-20660C00DD54.jpg先日の韮崎での部活動の様子。



そんなわけで、今シーズンは、しばらく沢三昧だったところからのリハビリも兼ねて末端壁に足繁く通っていた。春うららOSトライの1週間前、鷲がぱりっぱりの状態だったのを見て「そろそろかな」と思い始める。



そしてその1週間後、またAsakoとともに鷲を登った。今度は大きいギアも持って行って2ピッチ目まで。上まで抜けたら春うらら2ピッチ目の終了点に行けるんじゃないかと予想していたが、やはり同じテラスに辿り着けた。懸垂下降しながら、上から下までじっくりとラインを探った。


5_IMG_2161.jpg寒い日だった!でもたのし!


4_IMG_2194.jpg鷲2P目。ハンドサイズ1セットに5番と6番いっこずつで足りた。


3_IMG_2192.jpg眺めヤバすぎ!


クラックのサイズ、形状、フェイス面のホールド、フットホールド、使うギアのサイズと数、レストポイント、ムーブ、ホールディング。
こんなに真面目にオブザベしたの初めてっていうくらい、じっくり観察した。
お昼寝テラスまで降りてきて、実感としては、「出だしが上手くいけば十分OSできそう」。でも、実際はそうじゃなかった(笑)。


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前夜、入り浸っているAsako邸でワイヤーが切れたUL4番を直しながら、Sガちゃんが「これで明日のOS間違い無し!」と放出してくれたポテチ「幸せバター味」を貪る。


瑞牆本。
上下巻でオールカラー。この情報量をよくぞこの分量にまとめたとうなってしまうハイクオリティなトポだ。トポと一言で言ってしまうにはあまりある、読み物として十分読み応えのある書籍だ。
しかし、あまり読み込み過ぎると、厳密なOSでなくなる可能性もややある(笑)。それくらいの情報量(笑)。
その夜、瑞牆本上巻が視界に入った。読み込んでいるけれど、実は「春うらら」のところだけ、読んでいない。
それがここへきて急に不安になり始めた。
つい、ページを捲った。


そうして夢中でその文章を読んだ。トポに書かれてあることくらい、知ってもいいよね、って、豆腐メンタルに小悪魔が忍び込んだ。すると、昨日のオブザベと若干見当違いなことが書かれていた。使用ギアは私が思ったのとぴったり同じだった。(追加で.1と.2も使ったけど)


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読んだことで逆に不安を募らせる結果になってしまったが、そこで思い直した。人によってサイズ感も違うのだし、私は私の思った通りできっと上手くいく。これまでの経験を考えれば、十分OS圏内のハズ。新装改訂されたパフォーマンスロッククライミングにも書いてあったけど、「やれるはず」って気持ちでトライするのが大事だ。


そして、昨日。総勢4名で末端壁を訪れた。この日ビレイをしてくれたみぽりんは春うらら1P目をトライしたいとのことで、それもなんとなく「あ、今日かも」と思わせてくれた。


1P目を登り、ついにこの時がきた、と緊張する。
意識し始めてからは3年以上は経過していると思う。自分の中でこの存在をやや膨れさせすぎた感が否めない。
今日で本当によかったのか。チャンスは一生にこの一度きり。それが今で、本当にいいのか。
3連登目で若干疲れがある。肩もまだ完治していない。今日はすこしあったかで、2P目には午前からずっと日が当たっていた。ぬめらないか心配・・・。
でも、やらない理由はいくらでも見つかるもの。やると決めたんだからもう、今日やろう。

そのあとはただただ、必死だった。

なんども落とされかけたし、どうやって登るのかわからず、進退極まってずっと動けないでいた時間もあったし。
極度の緊張から過呼吸ぎみになり、途中で若干気持ち悪くなって、呼吸を落ち着ける時間もあった。
奮闘した。もう流石にぜったい落ちないだろうというところまで行くまでは、凡ミスで落ちたりしないよう、1手1足、1ムーヴ1ムーヴ、確かめるようにゆっくりと登って行った。


ずいぶん長い時間格闘していたように感じた。レストポイントをみつけるたび、レストしながら上を見上げて不安を募らせた。
でも、落ちなかった。
オブザベの通りには全然いかなかったけれど、いちども落ちずに登りきれた。


9_IMG_2242.jpgみぽりん長時間ビレイ&写真ありがとう!!みぽりんの「ガンバ!」にめちゃ助けられました。



2日前、鷲を2ピッチ登って訪れたばかりの、春うらら終了点にあるたくさんスリングの巻きついた巨木が見えたとき、ああ、本当にOSできたんだ、と気持ちがたかぶった。なんでもないスラブを、変な足取りで登って、終了点のぶっとい木を抱きしめた。自然と目頭が熱くなった。
10年も前から憧れ続けた超有名ルート、瑞牆を、日本を代表するようなトラッドルート。
それをOS出来たのだから、この恍惚感も無理はない。


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ロワーダウンをはじめると、急に寂しい気持ちになった。
もっとこのルートと触れ合っていたいような、愛おしい気持ちがこみあげてきた。


クライミングって、究極の自己満足。だからこそ純粋で価値があるんだと思う。
SNSにもアップしてるし、そりゃあ人に褒めてもらえるのはすごく嬉しい。
でも一番嬉しいのは、心の底から、自分で自分を褒めてあげられたことだ。
こんな瞬間は数年に一度あるかないかだけど、この瞬間のために毎日登ってる。


0_IMG_2246.jpgひとりでぷしゅだよ


昨日、落ちたくなくてシンハンドに無理やりねじ込みつづけた両手の甲がしびれてる。
上腕や肘はワイドで必死にずりあがった擦り傷だらけ。
そういうのが妙に心地いいって、クライマーじゃないとわからないやつだよね。


ああ、クライミングが、好きだーー!!!
もっともっと成長したい!!

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プロフィール

chippe

Author:chippe


肉好きchippeのブログへようこそ!
2006年10月 山歩きを始める。
2007年9月 クライミングを始める。
山岳同人「青鬼」所属。
「メラメラガールズ」所属。
国際認定山岳医。
「カリマーインターナショナル」アンバサダークライマー。
現在は無職、旅人。
旦那さんはpecoma。

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