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鹿島槍ヶ岳北壁氷のリボン敗退。 2021/4/10-11

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2週間前主稜に行ってから、ずっと氷のリボンのことが頭にあった。
みるみる気温が上昇し、あたりが真っ白な雪煙と爆風に包まれる特大スノーシャワーが頻繁に落ちてくる下をトラバースしながら、通り過ぎる時どうにかこうにか「チラ見」した真っ白な氷。


その3日後にこの氷を登った人の記録も読んでしまった。「チラ見」したとき思った通りのスカスカ氷だったようだ。


しかし、もう少し待てばコイツ状態が良くなるのでは?と思えてならなかった。
その期待通りに、そこからの数日間は気温が上がったものの、最後の1週間は冬に逆戻りしたかのように冷え込んだ。
いったん溶けたつららが結合し、きっと登りやすくなっているに違いない。
完璧すぎる天気予報を追い続け、ずっとワクワクしっぱなしで迎えた2週間後だった。


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それなのに、リボン取り付きでのパートナーの降りたいという強い申し出に、何かがぷつんと切れてしまった。
当然かも知れない。パーティで登っているのだし、大きくてリスクもあるこの壁の登攀を無理やり続けるなんて危なっかしい。
それに彼は、1週間前地上でもすでに同じ気持ちを私に打ち明けてくれていた。
それはカモババにスクリューを買い足しに行こうとした矢先のことで、私はその時高田馬場の道端でだいぶゴネてしまった。


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2年もブランクがあるし、自分にはオーバーグレード過ぎて楽しめない。
もっとステップアップを積んでから行きたい。不安しかない。主稜だって一般的なスピードで登れなかったのに。





そんな風に正直な気持ちを伝えてくれていたパートナーに、気象条件が悪ければ絶対に無理はしないと約束して、半ば強引に行く決断をさせてしまった。
だから取り付きでの一悶着は、当然想像できる内容だった。


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天狗尾根第一核心はこのボルダリングと渡渉。

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シュルンドや雪庇、雪のブロックを超えて。

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サイコウのテン場に到着!


主稜から2週間たって、もう4月も半ば。急激に融雪が進んですっかり様変わりした天狗尾根を越え、今回はロケーション最高な天狗の鼻に1泊する。
冷え込むけど気候は穏やかという絶好の登山日和となった週末に、遠く東尾根には一ノ沢の頭にも二ノ沢の頭にもテントが張られ、天狗の鼻も賑わいをみせてちょっとしたテント村ができた。

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暮れなずむテント村。


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そして輝くモルゲンロート。


そうして迎えた翌朝。1時半に起きて、3時前にはテントをでた。
アンザイレンして1番乗りでトラバースを開始するが、フォローのペコマがなかなか来ない。取り付きにつく少し前に夜が明けた。
「全ての後続に抜かれた」と彼は言った。もういっぱいいっぱいだと。明らかに実力が足りていないと。そしてこの先フォローでも登れる自信はないと。


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主稜にとりつかんとする知り合いパーティ。


この時間からまたトラバースを戻って敗退するなら、なるべく早く通過したい。
だけど目の前のリボンは思った通り、透明でつやっとしていて、痩せてぶっ立ってはいるものの氷質はよさそうだ。
パートナーも、氷を目の前に意気揚々としている私にできればそんなことは打ち明けたくなかっただろう。
それでも意を決して言ってくれたのだ。事故るかも知れないし、正しい判断だったと思う。それなのに私は、曇り切ったパートナーの表情をあえて見ようともせず、のらりくらりと「登ってみない?」「大丈夫だよ、いけるよ」などとあしらって、リードの準備を続け、登り始めてしまった。


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氷質はやはり2週間前と比べよくなっていたのだと思う。スクリューはちゃんときいて落ちれる強度はあったと思う。氷は硬くてパンプがひどかったけど、じわりじわりとは登って行けた。だが、サクサクとは上がれなかった。
そして段になったところから、氷が一気にベルグラとなって岩が透けて見えている手前でレストをしているとき、はあはあしている自分の息の音を聴きながら、我に返ったのか。それともただ弱気の虫が顔を出しただけか、分からないけれど、「これ以上進んだらダメかも」と思えてきた。
いったんそう思い始めたら急に不安が押し寄せてきて、2週間あんなに楽しみにしていた気持ちはどこへやら、即効でアックステンションしてアバラコフを作り始めている自分がいた。あまりにもたくさんの思考や感情が渦巻いていて、そのとき本当はどんな気持ちだったのか自分でもよく分からない。


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下山のとき、申し訳なさそうにしているパートナーを見てものすごく申し訳ない気持ちになった。
山登りは本来楽しいもののはずだ。だからこそ2人して山登りにはまったのだ。
それなのに今回の山行はそうじゃなかった。
だからそもそもが成り立っていなかったんだと、やっと気づいて反省した。


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何はともあれ、美しい景色が見られたし、経験値はまた上がったから行ってよかったと思っている。
パーティとしてモチベーションが合致し、実力も上がったなら、またリベンジもありかな。
もっともっと成長しよう。いろいろと!(笑)

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プロフィール

chippe

Author:chippe


肉好きchippeのブログへようこそ!
2006年10月 山歩きを始める。
2007年9月 クライミングを始める。
山岳同人「青鬼」所属。
「メラメラガールズ」所属。
国際認定山岳医。
「カリマーインターナショナル」アンバサダークライマー。
現在は無職、旅人。
旦那さんはpecoma。

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