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妊婦クライマーブログ。The Pregnant Athleteを読んだ。

"The CDC guidelines agree that healthy women can continue even vigorous activity through pregnancy."


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裏山からの眺望


明けましておめでとうございます!ついに2022年がやってきました。
2021年を振り返ると様々なことがありましたが、なかでも自分の人生のビッグイベントといえる出来事がありました。
昨年の9月に、妊娠が発覚しました。

年齢的にもそろそろ子供のことを考える時期となり、妊活をしていないわけではありませんでした。
子供は授かりものといいますし、無事に自然妊娠できたことはまず喜ぶべきこと、感謝すべきことです。
しかし正直なところ、私自身まだ母となる覚悟が100%できている訳ではありませんでした。
会社勤めをやめてフリーになったけれど、何も大きいことを成し遂げられていない。少なくとも自分で自分を認められるレベルには達していない。行きたいところもやりたいことも山ほどあります。
もういい年なんだし、そんな地に足のつかないようなことを言ってないで、と諌められても、これが正直な気持ちなので変えようがありません。
心の片隅にある焦燥感はとくにここ数年ずっと変わらず燻り続けていました。



しかし、人生は限りがあるので、やはり取捨選択していくしかありません。私は欲張りでやりたいことだらけです。
一度きりの人生において「子供を産み育てる」という経験もまたしておきたいという欲望がありました(子供が欲しいという純粋?な気持ちではない(笑))。
妊活をはじめたからといって本当に出来るかも分からないし、なるようにしかならない!という半ば投げやりな気持ちのままだったので、知識も心も全く準備できていない状態での妊娠発覚でした。
正直、不安60%安堵5%絶望(笑)35%という散々な精神状態でした。


これから岩シーズン!という9月の頭で、色々な計画がすでにあったことも混乱の原因のひとつでした。といっても何の計画もない時期はないのですが・・(笑)。
ひとまず、数度目の挑戦を考えていたスーパー赤蜘蛛は、パートナーに事情を話して中止しました。
そうして翌日、とりあえずペコマとボルダージムに登りに行きました(笑)。はじめはすごくいけないことをしているようでやけにドキドキしたけど、登り始めたらやはり楽しかったし何ともなかったのですこし元気になりました。
そして、「私は私だ」と思い直しました。それは妊娠しても変わらないはず。だからできる限り今まで通り、生活を大きく変えずに過ごそうと思いました。


とりあえず、「安定期」に入るまで運動を控える必要は無いと思いました。妊娠初期の運動と流産の関係性は実は知られておらず、その原因の9割が染色体異常だからです。山に入ることの問題点としては、急な出血や腹痛などのトラブルが起きた時に困るということですが、それはとりあえず「安定期」に入るまではペコマ同伴を徹底するということで自分なりの理屈をつけました。

そして、そのすぐあとのシルバーウィークに計画していたオバタキタンや山寺ツアーを中止しない(快く受け入れてくれたLisaご家族に感謝!!)と決めました。これで私の豆腐メンタルはいったん少し持ち直しました(笑)。



しかし、ここまで先が見えず色々と不安なのは「妊娠」についての知識が余りにも無いからでした。今まで全く興味が無かった「妊娠」について、そして「妊婦と運動」について、色々と調べるところからはじめてみました。



するとまず気づいたのが、妊婦と運動に関する情報は日本語ソースではほぼ皆無ということでした。

そもそも「妊婦は体を大事にすべき」「安定期(じつは医学用語ではない)に入るまでは絶対安静」のような固定観念が根強くあり、それに対してあえて運動をしたいと望む妊婦も少なく、情報の需要そのものが無いようでした。産婦人科医もわざわざそこに切り込む必要性がなく、「無理をしないで軽い運動ならいいですよ」とふわっとしか言わないけれど、それで困る妊婦が居ないから問題になっていないといった様子でした。


クライマーの妊婦ブログもほんの少しだけ出てきましたが、やはりとくに考える余地もなく「すぐクライミングをやめる」という方のみでした。私はなおも「本当にそうなのか?」と疑問でした。



というわけで、お決まりですが英語ソースをあたりました。当然ながら情報量は豊富で、英語圏のひとは日本人とは価値観からして大きく違うようでした。そして情報を集めていく中で、ブログの冒頭にあげたような、妊婦の運動をむしろ推奨する知見が色々と出てきました。妊娠期間中は妊娠前にやっていたレベルを超えない範囲であれば(そして危険な合併症がない健康な妊婦であれば)、むしろ運動を続けた方がいいというのです。というのも、「出産」という一大イベントには多大な体力が必要であり、そのための体力づくりが不可欠であるということ、そして実際運動習慣があるほうが安産となる傾向にあるそうです。

そして、1冊の本と出会いました。それが "The Pregnant Athlete"です。


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面白かったので、Kindleで読んでましたがペーパーブックも買いました。


私は産科の専門家でも何でもありませんので、自分が納得できる情報を採用し楽しく充実した日々を過ごすために活用しています。だからここに書くこともその延長でしかなく、医療者としての見解などではありません。
ただ「こんな妊婦クライマーもいるんだな」と日本の女性クライマーの方にも知ってもらえたら、何かプラスになることもあるかな、と思ったので書いてみます。



The Pregnant Athleteは、2014年、いまから7年前にアメリカで出版された少し古い本で、当時はアメリカでも「妊婦が運動するなんてありえない!」という考えが主流だったようです。この本は、とあるアメリカ人トライアスリートの女性と、2度の妊娠期間中彼女を診続けたアスリート妊婦の研究を専門とする産科医の話がメインストリームです。その他多くのオリンピアンや世界のトップレベルのプロアスリートの妊娠体験が綴られており、アメリカの産婦人科学会の見解や研究報告などが追記されています。

読み物としてとても面白い上に、妊娠期間中のTipsがたくさん散りばめられていて、私が読むにはまさにぴったりな本でした。


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先日、"裏山"に登ってきました!深田久弥ゆかりの地、茅ヶ岳です。



ここに書かれていた運動に関することをいくつか紹介すると、
・妊娠初期の運動は胎盤の発達をうながし、胎盤機能を向上させる。
・妊娠期間中は、ホルモンの影響や生理学的な体の変化によって心拍数は運動強度の指標になりえない。RPE(主観的運動強度)がよい指標となる。
・RPE13-15(非妊娠期間中であれば心拍数130-150くらい)の強度の運動を行うことで、胎盤の一時的な血流低下が起こると、胎児(胎盤)の緊急事態に対応する能力が上がる。
・妊娠後期の腰痛予防のためにもプランク(体幹トレのひとつ)はとにかくやったほうがいい。
・妊娠中は専門とするひとつの運動をやり過ぎるのを避けて、クロストレーニングを多く活用するのがよい。
・妊娠期間中に行うトレーニングは、非妊娠期間に行うトレーニングと比較して、同じ強度・長さでもトレーニン効率が高い。
・妊娠期間中は循環血液量が60%増加しており、この間に心肺機能を高めるトレーニングを行うと、妊娠終了後に大幅な心肺機能向上を期待できる。
・妊娠期間を通して精力的な運動を続けている妊婦に早産が増えるという事実は無く、むしろ運動習慣のある妊婦のほうが38-39週ころ(早産ではないが予定日より少し早め)に出産することが分かっている。また、運動習慣の全くない妊婦は予定日を過ぎ、41-42週で出産する例が多い。
・妊娠中に運動を継続していた妊婦から生まれた児は低出生体重にはならないが、運動をしなかった妊婦の産んだ児と比較すると体脂肪が少ない。また、前者が研究期間中に巨大児を産んだ例はゼロだった。
・妊娠期間を通じて運動習慣のあった妊婦から生まれた児はApgarスコアで高得点となる傾向がある。

などなど・・・。


まあ、こういうのはいくら論文としてまとまった「研究成果」といっても、研究テーマの特性上様々なバイアスを排除するのが難しいものだと思うので、信じるかどうかはその人次第です。
それより私にとって、この本のなかで最も印象的だったのは、妊娠しながら大会出場レベルでスポーツを続けたアスリート妊婦たちの生の体験談と、数々の言葉でした。


"I did it because I loved it and it was my life."
"It was a part of me."
ここでいう"it"とは、それぞれのアスリートの専門としているスポーツのことです。
私は、この"it"に"クライミング"や"山"を当てはめて、正に「同感!!」と思いました(笑)。


たとえお母さんになっても、その人が全くの別人に変わる訳では無いし、変わるべきではないと思うんです。


"If I couldn't run for 9 months, I'd go insane. When I run, I sort out my problem"というマラソン選手の言葉を見て、私自身は全くアスリートレベルではないものの、私が感じているようなことを感じて実践している妊婦は世界に大勢いるのだなあと勇気付けられました。


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昨年下半期は母校のみならず、防衛大学校や山梨県警など、山岳医として医療講習会の講師をさせてもらう機会も多くたいへん充実しました。



ただ、クライミングと妊娠は、少々相性が悪いかも知れません。
まず、妊娠6ヶ月くらいになって子宮が大きくなり骨盤腔から上方へ移動してくると、子宮が骨盤の中で守られていた時よりもお腹をぶつけることには気をつけなければならないでしょう。
また、胎児の重さだけでなく、羊水、乳房の発達、循環血液量の増加などによって体重はどうしても増えてしまいます。対して、「リラキシン」というホルモンの影響で骨盤周りだけでなく全身の関節や靭帯が弱っているので、手首や指などにかかる負荷は高くなり怪我の可能性も大きくなります。


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家でムンボトレは続けていますが、先日は「ロクボク」で登らせてもらいました。妊婦だとわかっても快く「ナイス!」と応援してくれた店長さんたちの優しさに感謝です。


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和牛も変わらずレアで楽しんでます(笑)。ちなみに、私は比較的レア(稀)なトキソプラズマ既感染者で抗体もってました。思い当たる節がありすぎる(笑)


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ノンアルカクテルも美味しいもんですね。ノンアルビールは美味しくないので飲みません!



私はもともとロッククライミングでは「軽さ」を武器に成果を出してきたので、避けられない体重の増加とともに登れるグレードもどんどん落ちてきました。昨年エクセレントは登れましたが、あれも傾斜が無いからなんとかなったようなもので、城ヶ崎や二子山などにいったらお話にならないレベルでフィジカルは落ちてます。


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野猿谷ボルダーのキャンパ3Q課題。妊娠5ヶ月。かなり苦労しました。。


今やキャンパシングもやっと1回出来るかどうかくらいになってしまったし、指も手首も痛いのでテーピングぐるぐる巻きで、ケア多めで楽しんでます。


先日は八ヶ岳で冬山シーズンインもしてきました。今年は簡単な氷雪ルートにも挑戦したいと思っています。
昨年9月の混乱状態のときには、まさか自分が妊娠6ヶ月で普通に冬山登山ができるなんて夢にも思っていませんでした。
お腹の中からぽこぽこと蹴ってくる小さな"travel companion"と会話しながら、また白い景色が見られて幸せでした。
妊娠前には刺激を感じられなくなっていたようなことでも、今なら「挑戦」と思えるので充実します。


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歩荷トレ!でも食材食べきれなかった!!OMG


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ペコマのリードトレもかねて南沢小滝。結局TRでドライ遊び(笑)


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12/30-31はかなりの降雪量でした。


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やっぱり山は楽しいねー


1_51423325-4FBF-4ABA-B888-7D4600FE376D.jpg天気悪すぎたけど、シーズンはじめの肩慣らしは出来ました。お腹は出てきたものの、妊娠前と感覚はほぼ一緒でした。ただ、今後はウエストを締め付けないアンダーウエアやヤッケ(つなぎなど)を使う必要がありそうです。



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山梨ライフもかわらず皆さんのおかげで満喫中です!


これからも出来る範囲で楽しく、色々なところで色々なことをしたいと思います。
今年も宜しくお願いいたします!

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プロフィール

chippe

Author:chippe


肉好きchippeのブログへようこそ!
2006年10月 山歩きを始める。
2007年9月 クライミングを始める。
山岳同人「青鬼」所属。
「メラメラガールズ」所属。
国際認定山岳医。
「カリマーインターナショナル」アンバサダークライマー。
現在は無職、旅人。
旦那さんはpecoma。

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