2007/12/25
頼みすぎ症候群
今、精神科を回っている。外来に陪席していると、”摂食障害”の人によく出会う。
これは俗に言う「拒食症」とか「過食症」のこと。
付き添いの人に支えられてふらつきながら入ってくるような人も居る。
若~中年くらいの女性が多くて、手足が木の枝のように細い。
この間の摂食障害の女性は、多院からの紹介で来た。
付き添ってきた母親の話によれば、その人は小さいころから食の細い子供だったそうだ。ミルクも飲まないし、食べ物を欲しがらない。
心配になった母親は、口を無理やりこじあけてでも食事をさせたそうだ。
そしてその患者さんは言う。
それがストレスで、食に対する興味を一切失った、と。
その後壮絶な人生を送る彼女なのだが、結局のところ、むちゃ食いして全部吐く、ということを繰り返すようになる。食べることは食欲とは切り離されていて、単なるストレス解消の手段らしい。ホールのケーキを全部食べるとか、出前を5000円分くらいまとめて頼んで一気に食べ、一気に吐くそうだ。
今は、摂食障害を治したいという気持ちが強いらしく、入院するのもイヤだから食べるようにしているとのこと。でも無理に体重を増やそうと、嘔吐なしの過食をはじめたら体重が3日で8kg増えた。そういうことをすると体内の電解質バランスが狂って突然死の可能性もあるから、「普通の量を食べるようにしましょう」、と医者は言う。
でも患者さんは、「普通がどのくらいの量か判らないんです。外食なら一人前を頼んでそれを食べればいいけど、実家に居ると食べ物がいっぱいあるからどのくらいまで食べていいのか判らない」と訴える。
私も、小さい頃は食が細かった。
食も細かったし食べる速度も遅かった。
それが家族全員そうであれば問題ないのだが、私ひとりが小食で、遅食いだったように記憶している。だから食に関しては苦しむことが多かった。
この患者さんと同じく、食べることに対してある種のストレスを感じていた。
「残さず食べなければいけない」というプレッシャーが、食を楽しくないものにしていた。
母親が作ってくれたお弁当がどうしても食べきれず、残ってしまうと、恐ろしくて家に帰れないくらい悩んだこともあった。
そういう感情がトラウマみたいにして、今日まで残らなかったのは奇跡に近い。
私はどういうわけか、この患者さんと同じ道をたどることなく、「食べるの大好き人間」へと成長した。
上述のように、私の家族は(昔の私に比して)大食いで、早食いだ。
焼肉屋さんや居酒屋などでの頼みっぷりはヤバい。1発目の注文で大量に頼む。
これを普通の速度で食べてなどいたら、あっという間にテーブルに載らなくなる。
私は長いこと、これが普通だと思って育ってきたのだが、友人と焼肉屋や居酒屋に行って2度ほど怒られたことがある。「頼みすぎだよ!またあとで追加すればいいじゃん!」「そんなに載らないよ!」「早いよ!!(怒)」
それで、普通の女の子と食べに行くときはかなり自粛すべきと学習した。
先日、母と二人で実家近くに新しく出来た居酒屋に行った。
いつもの調子で注文して、先に来たビールを飲んでいると店員がやってきた。
「あのー、ちょっと、注文なんですが、女性二人で召し上がるにはちょっと量が多いんじゃないかと思いまして・・・」
母とふたりで固まった。
私「えーと、1人前が多めなんですか?」
店員「いやー・・別にそうではないんですけど(苦笑)」
私「・・・じゃあ、たぶん大丈夫だとは思うんですけど・・・」
店員「あー、そうですか、大変失礼いたしました」
彼は良心で来たのだろう。
こんなことを言われたのは二人とも生まれてはじめてだったが、
まあちょっとした親切心なのだろう、ということで納得した。
その前の日に行った居酒屋では二人でもっと沢山頼んでいるし、まあ、いつもどおりだよな、と思っていた。
そうしたら、しばらくして出てきたサラダとか、4人前くらいあったし、鍋も1人前で普通の店で出る2人分くらいはゆうにあったし、要は、多めだった。宴会サイズなのだ。
そして予想外に、母が余り食べられなくなっていることが発覚した。
母「もうお腹いっぱい・・・」
私「え、もう!!?」
まだこんなにあるけど、私がひとりでこれ全部食べるの・・かな?笑
食べられないことはなさそうだったが、あまりに摂取カロリーがやばそうだ。
これは明日走るしかないな・・・と覚悟を決めた。
ここでもう一度よく考えてみる。
もしあの時、店員があんなことを言いに来ていなかったら、こんな事態は免れたはずだ。
母と私は、「ちょっと頼みすぎちゃったね」と言って、どうしても食べられなければ残すこともできたはずだ。
だがあの店員のひとことが事態を一変させた。
私たち二人を、「残さず食べなければいけない」というプレッシャーの中に追いやったのだ。
楽しい居酒屋でのひとときを過ごしに来たはずが、大変な重圧のなかのひとときを過ごすこととなってしまった。
せめて、あんなことを言いにくるのなら、中途半端にはっぱをかけるのではなく、もうちょっとちゃんと警告して欲しかった・・と、頼みすぎた自分達のおろかさを店員のせいにして、苦しいお腹を押さえながら店をあとにしたのだった・・・(完)
コメント
2007/12/25 22:10 by クレア URL 編集
最近仙龍でネギ頼むと「(意図的に?)ネギ切りすぎちゃったけど、ちょっと多めいけるよね?」
とか聞かれるようになったww
2007/12/25 16:47 by しろくま URL 編集